バトンはやっぱり多くのコメント頂けて嬉しいです。
ならばたまにはリアルに日記書くべきか?なんてふと思ったり。
でもここでリアルに戻るとまたしても今までの続きを放置してしまいそう。
大体、過去に決別するために書いてるようなもので、これを書き上げないと現代に戻れないつもりで書いていたのだった。
ということで、ここはぐっと我慢して、「靴職人への道 中途挫折編」を続けます。
読むほうも我慢してください。
っていっても無理して読んで具合が悪くなっても責任とりません。(汗)
—————————————————————–
午後5時。
チャイムが鳴ると
職人Bさんが私を呼ぶ。
食っている魚肉ソーセージを1本わけてくれるのだ。
「腹減るだろうがよ?おまえよ?これが一番いいって。栄養もあるしな」
「あ、ありがとうございます」
自称管理職な職人Cさん、私にゆでたまごを1個渡す。
「今日も長くなるからよ」
「ありがとうございます」
なんだかんだいって皆優しいのである。
しかし、仕事は綺麗ではないのである。
今日は集塵機の掃除の日だ。
身長よりも大きな掃除機の中を掃除すると考えてもらえばいいかも。
靴を作る際に、革をグラインダーで削る。
その削りカスは、1週間で米袋2つ分くらいになる。
産業廃棄物だ。
職人Cさんが言う。
「削りカスを触るなよ、ワイヤーが刺さって、毒が体に入るからよ」
そういうCさんは真っ黒になった手の先に無数に刺さったワイヤーの粉塵を見せて笑う。
「触らないように気をつけます・・・」
通常、なめし革の有害性など考えもせず、皮革製品を着たり履いたりしているものだ。
しかしこの削りカスを見ると、革は健康には良いものだと考えることは難しくなる。
水に浸って異臭を放つ粉塵は、まさしくヘドロだった。
これはマディ・ウォーターズ。
ヘドロの片付けは、職人Cさんと私の仕事だった。
「オレ一人でも出来るんだけど、ちょっと重てえからよ、おめえは若けえから力があるよな」
「いえ、それほどでもないですが」
「オレは管理職だからよ、他の連中と違って、いろいろやることが多いんだよ」
「そうですか」
「ここの連中はよ、皆使い物にならねえんだよ、見てみな、皆で背中丸めて輪になってよ、本当はオレがやれば、あんな仕事すぐ終わっちまうんだけどよ、そうしたら皆クビになっちまうからよ」
「は?・・・」
「おめえも保険入ってんだろ?」
「ああ、はい。入社時に説明はありました」
「ここの職人は皆健康保険も雇用保険も入ってねえんだよ。だから手取りじゃオレよりも給料はいいんだけどよ、クビになったら何の保証もないからよ、皆しがみついておべっかつかって仕事してるんだけどな」
「でも、職人の組合もあるらしいじゃないですか」
「何の役にもたたねえから、オレは入らなねえんだよ」
「そうですか?」
腰曲がり師匠は、以前に私にこう言った。
「おめえもこれからしっかりした職人になるんだったら、いつかは組合に入るだろうから、覚えときな。あいつら技術のねえ連中はよ、保険には入ってるけど、クビになったらそれでおしまいだ、チョン!だよ。わかるか?あいつらはゴミ作ってるようなもんだ。何年もやっててあれじゃ使い物にならねえ。おめえもしっかりやってればいつかは一人立ち出来るから、その時に助けてくれるのは、自分の腕と、組合だ」
どっちが正論なのか。
立場にもよるから、わからないと言えば判らないのだが、一つだけ判っているのは、職人Cさんよりも、腰曲がり師匠の作る靴のほうが明らかに出来が良かった。
自称管理職の職人Cさんは、本当に管理職なのか?
という疑惑もあった。
しかし・・・
さっきCさんに貰った玉子を食ってしまったし。
素直に言う事を聞いておくか!
こんなことを話しながら集塵機にこびりついたドブのような匂いのヘドロをホースの水で洗い落とすのだ。
工場の外、道端に集塵機を出して水かけ掃除をしていると、工場内のホワイトカラー、職人以外の事務系、営業系の人たちは次々に帰っていく。
「穂高さんも大変だね?」
「いえ?とんでもないです」
「今日も遅いの?」
「いや、今日はいつもより早く終わりそうだっていってましたけど」
「8時とか?」
「ええ、たぶん」
「は?・・・おつかれ!」
「おつかれさまです」
「はやくおわるようだったらさ、今度、これ、飲みに行こう」
「ああ、はい!」
結局、会社が潰れるまでの間、その人と飲みに行く機会はなかった・・・・
次回につづく・・・
続きに興味があったらぽち!ってことで、よろしくお願いします。