中途養育者の立ち位置によって経済的格差が生じていると言いましたが、具体的にそれぞれの立ち位置でどのような格差が生じているか(あるいは生じる可能性があるか)を考えてみたいと思います。
社会的養護(公式な養育)の場合
先ずは社会的養護における、施設等に子どもを預ける場合に、親権者は収入によって入所費用の負担があります。
参考:人生をうらんだりうらやんだりするブログ
児童養護施設にかかる費用は?
https://ura-ura.com/orphanage-money/?fbclid=IwAR1z3KPEx9n4WmV9gs3hyMxOd11WFg1mOBgG5hwdn7p_FLQRGJ2CtFa3lvE
500万円までの月収がある家庭だと子ども一人預けた場合に0円~21800円のお金が毎月かかることになります。
また、社会的養護下での子ども一人あたりのコストを考えてみたいと思います。
https://nf-kodomokatei.jp/wp-content/uploads/2020/12/ce6e459d6a9bb20b3e0b4b397f16a02b.pdf
上記資料の9頁あたりからの抜粋によれば、
東京都の平成27年度予算を基にすると、措置先別の子ども1人あたりの年間予算額は、民間児童養護施設(民間グループホームを含む)が4,761,510円、乳児院が6,816,759円、ファミリーホームが2,849,846円、養育家庭等が1,821,024円となる。 これは、里親委託等の養育家庭の費用を1とした場合、民間児童養護施設は2.61倍、乳児院は3.74倍、ファミリーホーム1.56倍にあたる。
児童養護施設は里親委託より2.61倍コストがかかっているということになりますが、これは様々な事務費、人件費等のコストがかかっているということであり、児童養護施設に措置される子どもが裕福であるという事ではありません。
では、里親に支払われる経費について考えてみたいと思います。
里親措置費について/千葉県
https://www.pref.chiba.lg.jp/jika/jidou/satooya/sonohoka.html
里親手当は90,000円(専門里親は141,000円)、一般生活費は乳児60,300円、一般52,370円です。
その他、申請すれば教育費、給食費、行事費、特別育成費、医療費、冷暖房費など、実際にかかる費用程度の措置費の支給があります。
また、親族里親には里親手当の支給はありませんが、一般生活費の支給があります。
養子縁組の場合、縁組が成立するまでの間生活費の支給がありますが、縁組成立後に費用の支給はありません。民間利用の場合、あっせん費用として100万円~かかる場合が多いようです。
非公式な養育の場合
ここでいう非公式な養育とは、児相を介していない親族養育、子連れ再婚(ステップファミリー)等です。非公式な養育者には基本的に手当ては何もありません。ただし、困窮家庭に限っては児童扶養手当等の対象になる場合もあります。(所得制限あり、全部支給で43,070円)
参考:
児童扶養手当|足立区
特別児童扶養手当|足立区
親族養育
親族里親になれる親族はとても少ないのが現状です。(制度自体を知らない当事者も多いです)先ず、親族の場合、該当の子を児相に保護してもらう必要がありました。東日本大震災以降、認定基準が大きく変わったとされていますが、首都圏で親族里親に認定されている人は5人程度しかいないと言われています。
参考:
親族の子を引き取った人も「里親」なのに、利用は限定的? 支援現場は「助成を活用して欲しい」
親族が児童扶養手当を申請することは可能です。ただしその親族が年金受給者だった場合には、併給調整があります。
いずれにせよ社会的養護における養育費の考え方と根本的に違うのは「生活困窮した場合に限り」支援を行うという部分であり、養育する、しないは自己責任で決めるという点です。施設に行くのは可哀想と思って引き取るケースが多いと思われますが、実質的には「保護されない方が生活的に貧しい」可能性が高いのです。
時代背景は違いますが「火垂るの墓」という話の中で、兄妹が親戚の家にお世話になる場面がありますが、子どもが増える事による生活の負担という意味では、今も昔も変わらない訳であり、不幸な結果を導かないためにもなんらかの形で支援が必要と思われます。
参考:火垂るの墓のおばさんはいい人で悪くない?嫌味なセリフも実は正論?
ステップファミリー
ステップファミリーに関わる支援はほぼ何もありません。
離婚してひとり親だった時には所得に応じて児童扶養手当の支給があった場合がありますが、再婚する事によって手当はなくなります。これはひとり親モデルが元々母子家庭であり、再婚によって稼ぎ手が現れるという理論から来る設計と考えられます。しかし、実際には、平成22年8月1日から父子家庭の父にも児童扶養手当が支給されるようになっていて、そのような受給者が再婚することによっての継母を新たな稼ぎ手と考える事には無理があります。
また、ステップファミリー家庭の中途養育者側は養子縁組をする必要はありませんが、養子縁組している家庭も多く存在していると思います。その例に限りませんが、再婚によって離婚相手からの養育費もなくなるのが一般的であろうかと思われます。
目黒区の結愛ちゃん虐待死事件もステップファミリーでした。中途養育者であった雄大被告は「親になろうとしてごめんなさい」という言葉を残しています。親になった経験のない初婚男性が、子どもがいる家庭生活をどう設計していいのか判らなかったと考えられます。少しでも、中途養育される子どもに関わる支援があったら、結果は違っていたかもしれません。
参考:虐待事件から考えるステップファミリーの重圧 無理に「親になろう」と思わなくていい 時間をかけて’’仲間’’になろう
非公式な養育者は自助努力する以外にはないのが現状
一般的な家庭モデルであれば、子育ては自助努力が基本であり、その上乗せとしての共助、公助があるという理論になると思います。
しかし、中途で養育者が交替している家庭モデルにおける子ども達はほぼ、なんらかの形で喪失経験をもっており、本来、トラウマケアの視点が必要です。そのような状況下であるにも関わらず、中途養育者は自身の家族環境のスティグマから共助、公助の恩恵を受ける事を避ける傾向にあり、地域や行政においても養育者が交替した家庭における支援を理解していないため、中途養育者に不適切な叱咤激励をしがちです。マスコミ報道における虐待者のイメージも、中途養育者を孤独に追い詰めます。
中途養育される家庭のモデルとして、非公式の養育者に対する支援のなさは、一般家庭の子育て支援が使い辛いという点からも、より少ないと言えると思います。
困窮する前に使える子育て支援策の検討を、行政にはお願いしたい次第です。