雅子と娘の洋子とその夫の彰秀、3人が住んでいる家に花子が初めて来たときは、生まれてから5ヶ月くらい経った頃であろうか。
既に首は据わっていた花子は、髪の毛の薄い、皮膚の色も薄い赤ちゃんで、顔も体格も小さく、その薄く、弱々しい顔で、小さく笑うのだった。
その小ささが不憫でもあった。
光彦の最初の子供、別れた嫁の親族が連れていった子供の、赤ん坊の頃はこんなに小さくはなかった。
花子の小ささは男の子、女の子という性別以上のものがあった。
おそらくは、遺伝的なものだろうと雅子は思った。
骨の太さも、肌の色合いも、眉毛の太さも、光彦にも、自分にも、似ていなかった。
ママの美佐子によく似ていたのが救いだった。
少なくとも、花子の顔立ちから前夫の面影は感じ取ることが出来なかった。
美佐子の当時の夫は、花子の兄を引き取っていった。
離婚することにしたのは、美佐子が光彦と付き合っているからなのか、花子が光彦の子供だからなのか、それらのことは全く関係なく、美佐子に対して嫌気がさしたのか、不明である。
一つだけ言える事実は、生まれて数ヶ月の赤ん坊である花子を、夫側は引き取らなかったということ。
美佐子が「この子は絶対に渡さない!」と言ったのかもしれない。
でも、この子を自分で育てようと思っていた訳ではなかったようだ。
花子は雅子の家で預かることになった。
美佐子はホステス、光彦はホストの仕事に出かけた。
日中はアパートで寝ていて、夜は仕事だから、実質的に本当の親が花子と会うのは一日のうち、ほんの数時間しかなかった。
美佐子は、自分自身も親に育てられていなかった。
親戚の家で育てられ、そして、勘当されたという。
行くところはもう何所にもないという。
そして、水商売しか自分には出来ないという。
そして、子供の面倒も見られないという。
結局、自分は不幸だから、義母の雅子と義姉の洋子に、交代で一日中花子の面倒を見てくれと言っている訳だ。
雅子は最初、複雑な想いで花子の世話をしていたと思う。
自分に似ていない、自分の息子にも似ていない赤ん坊を自分に押し付けて、朝まで飲み遊んでいる息子と嫁(になるかもしれない女)に腹が立った。
美佐子と雅子では、「既定の概念」があまりにも違いすぎて、美佐子が何を考えて他人に子供の面倒を見させることが出来るのか、理解することは雅子には無理だった。
雅子の「既定の概念」では、子供を育てるのは、親の仕事である。
雅子にしろ、娘の洋子にしろ、あくまでも花子の面倒を見ていただけに過ぎないし、責任を持って育てていなかったとしても、それを責めるべきではないだろう。
この時点において、雅子は美佐子を信用していなかった。
ただ、光彦にとって、美佐子と花子が必要なことは理解できた。
雅子は、光彦の女の見立てに腹が立ったが、腹を立てても仕方のないことだった。
つづく
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