いつもなら夕方になれば家に来るのに電話にも出ない光彦が心配になって、雅子はアパートの様子を見に行った。
光彦はエアコンをつけたまま冷たくなっていた。
雅子は光彦の仕事のパートナーに電話をかけた。
パートナーは、すぐに警察に電話をするように雅子に入った。
雅子は、何故「救急車」ではなくて「警察を呼べ」といったんだろう?とぼんやりと考えた。
雅子は洋子に電話をした。
洋子は、「とにかく救急車を呼んで、これから直に行くから」と言った。
彰秀は、洋子が落ち着いて運転しないと自分たちが危ないのだから先ず落ち着けと言った。
洋子達が1時間近くかけてアパートに着いた頃には、既に光彦の仕事の同僚、警察、「おねえちゃん」が来ていた。
雅子は心臓発作が起きて、ニトログリセリンを舌の下に入れて、横になって事情聴取を受けていた。
「一応、検死結果が出るまで埋葬はしないでください」と刑事は言って、帰っていった。
セレモニーセンターの従業員は光彦の同級生だった。
彰秀は、雅子と洋子を実家に帰した。
「おねえちゃん」にも帰ってもらった。
「おねえちゃん」は光彦と最後に話したとき、「騙された」といって泣いていたと言っていた。
「その前にも実は私たちケンカして、別れるっていってたんです。でも、光彦さんから電話で、もう一度やり直せるか?っていうから、わかったっていってたのに・・・」
彰秀に言える慰めの言葉はなかった。
彰秀が光彦と二人だけで朝を迎えたのは、警察からの電話を待っていたからだ。
朝9時ちょうどに、電話はかかってきた。
「事件性はないと判断しましたので、埋葬してかまいません」
「わかりました」
アパートのドアが開いた。
花子が一人で入ってきた。
「どうした?」
彰秀は驚いた。
花子は「見に来た」と言った。
「パパ死んだの?」
「そうだよ」
「なんで口から血が出てるの?」
「判らない」
「鼻血も出るからティッシュ詰めてるの?」
「たぶん、そうだと思う」
「涙も出てるよ、痛いのかな?」
「そうかもしれないけど、わからないね」
花子の年齢で、彰秀はそんなことは習わなかった。
40年近く生きてきた訳だが、花子の質問に答えることは出来なかった。
彰秀は実家に電話をして、「花子が一人で来てしまったから迎えに来るように」と伝えた。
光彦の葬儀で、喪主である長男の義彦は「この2人の子供達は家族で責任を持って育てます。どうか皆さんにおかれましても見守ってくださいますよう、お願いします」と挨拶をした。
光彦の遺産は家族全員で放棄した。
意味不明の電話や差し押さえの手紙はしばらく続いたが、法的処置を取っていることを理解すると、連絡は来なくなった。
雅子は、花子と太郎を養子にした。
美佐子が出所した時、どこの馬の骨ともつかない男と現れて、子供達を連れて行けないようにするためだ。
もう一度、「皆で頑張れば、なんとかなる」を実践しなければいけない。
今度こそは、「既定の概念」を統一しなくてはいけない。
色々なことがあったので、「既定の概念」は、依然とは随分と変わってしまったような気がする。
しかし彰秀は、「既定の概念」が統一されるのには、これからまだまだ時間がかかると思った。
花子や太郎に対して、雅子は「面倒を見る」のではなく、「育て」ることを、光彦の死の前から既に意識していた。
保育園や、小学校から、花子や太郎に関する「苦情」を受けていた雅子は、この子達は面倒見ていただけではまともな人間になれないことを悟っていた。
責任という問題ではなく、家族として関わる人間が他人から非難されるのは、雅子には我慢できなかった。
雅子は、もう一度、数十年ぶりに、子育てを始める決意をした。
今度の子育てが以前の自分が産んだ子供とどのように違うのか、この時点で雅子は思いもつかなかった。
そして、長男の義彦の家族、長女の洋子の家族、共に、自分の家庭の距離と、雅子と花子と太郎の家庭の距離を測りかねていた。
すべてはこれから始まるのだ。
これで、ようやく、プロローグを終わります。
長いことありがとうございました。
そして、お気づきだと思いますが、本編はこれからです。
まだ考えてませんが・・・(^_^;)
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この話はあくまでもフィクションです。
登場人物も、団体も実在しませんから。
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