雅子と洋子を、腕に包帯を巻いた光彦が出迎えた。
部屋に入ると、花子が走り寄って来た。
壁には離乳食のペーストが飛び散っていた。
キッチンの窓は割れていた。
太郎のオムツはオシッコでパンパンに膨れ上がっていた。
花子が言った。
「ママがね、包丁投げて、パパ血出たんだよ」
雅子は訊いた。
「なんでこんなことになるの?」
「知らね?よ。頭おかしくなったんじゃね?の?」
光彦の言うことを信じれば、美佐子はどこからか覚醒剤を入手し、中毒になっていたようだった。
やめろといってももうどうしようもない。
このままだと殺されてしまう。
美佐子は光彦の通報で警察に連行されたのだそうだ。
雅子は、子供の荷物をかき集めて、洋子の車に詰め込んだ。
引越しの準備でごった返した家に、2人の子供はやってきた。
子供達が来て直に、雅子達は仮住まいに引っ越した。
雅子の子供達が生まれ育った家は、解体された。
雅子が折らないように気をつけてくれと頼んでおいた松ノ木の枝は、予想通りに折れた。
光彦の兄、長男の義彦夫婦と雅子が住む予定で設計した住宅の基礎工事が始まった。
いずれにしても、今までの家よりは広くなるから、2?3人住人が増えてもどうということはない。
客間として考えていた部屋に親族が入るだけのことだ。
新しい家が出来るまでの数ヶ月間、駅2つ程離れた所にある2階建てのプレハブ住宅で過ごすことになった。
ハウスメーカーが用意したこのプレハブ住宅は、床下からの湿気が凄く、靴は全てカビだらけになったし、彰秀のレコードコレクションにもカビが生えた。
洋子の車は引っ越してきて直に、誰かに傷をつけられていた。
この3ヶ月程の仮住まい生活の間、隣近所の人は太郎も花子も彰秀夫婦の子だと信じて疑わなかったし、この5人が新しい家に住むと皆当然のように思っていたので、敢えて否定はしなかった。
人目を欺くために巧妙に作られた「家庭」のようだった。
雅子たちも、それがあまりにも自然に感じられるのが、なんとも奇妙な気分だった。
仮住まいは狭く、不快だったが、この生活は妙に落ち着いていた。
光彦と美佐子は離婚した。
太郎と花子は光彦が引き取ることになり、実質的には雅子が面倒をみることとなった。
美佐子は行政施設で更生するまで過ごすことになった。
洋子達の小さな家は雅子達の家の半分もなかったので、出来上がりも早かった。
洋子達は新しい家に引っ越した。
奇妙な「擬似家庭」は、解体した。
「擬似家庭」は、洋子達夫婦から、義彦夫婦にバトンタッチされた訳ではない。
義彦夫婦はあくまでも2世帯住宅の「2階」に住むのである。
雅子の新居には、光彦と花子、太郎が同居した。
光彦はまた多額の借金を作っていた。
義彦が借金を1本にまとめ、返済計画を立てた。
雅子の書斎の予定の部屋は、光彦の寝室になり、客間は子供部屋になった。
ゆとりをもって収納場所を確保したつもりだったが、直に収納しきれなくなった。
新居の床が見えなくなるのに、それほど時間はかからなかった。
もうひとつの小さい方の新居に引越した洋子はしばらくして妊娠し、娘を産んだ。
1年程遅れて、義彦の嫁も、娘を産んだ。
花子と太郎は、赤ちゃんが生まれたことを、とても喜んだ。
つづく
この話はあくまでもフィクションです。
登場人物も、団体も実在しません。
ですから、こいつはなに考えてんだとか、許せないとか、こういう描き方は酷いとか、よくわからんとか、ご意見、または要望等ありましたらコメントお寄せくださいますよう、お願いします。
適宜に?今後の展開に取り込ませていただきます・・・
ブログランキングです。
応援していただけるなら、こちらをクリックしていただけると嬉しいです。
blogranking2