彰子は、娘夫婦と暮らす中での光と美佐子、その連れ子のウタコとの生活が苦痛ではなくなってきたのと同時に、そのことが本人たちのためにはならないと感じていた。ただ、それを言い出すキッカケが中々なかった。

そんな中、彰子の息子、長男が結婚するという。

長男夫婦に世帯主として戻って来てもらい、一つ一つの家族に自立して貰い、それぞれが自由な家庭を、築いてほしい。
以前から彰子は思っていたことを、実行に起こすチャンスだった。

美佐子と光彦、娘夫婦、それぞれが実家から少し離れたところに引っ越した。

光も美佐子も、面倒をみてくれる家族が身近にいなくなったが、共働きのスタンスは変えなかった。
ウタコは24時間営業の保育所に預けられ、光が引き取りにくるまで預けられていた。
光は仕事が終わり、保育所からウタコを引き取ると、コンビニ弁当と離乳食を買って帰り、テレビを見ながら、ウタコと一緒に寝た。
朝起きると、スナックの仕事から帰ってきた美佐子が寝ている。
光はウタコと美佐子をそのままにして、仕事に行った。
美佐子は、夜の仕事に出かける前に、ウタコを保育所に預けた。
光と美佐子にとっては、それは今まで、彰子の元にいた頃と何も変わらない生活だった。

ウタコが保育所に預けられただけのことだ。

ただ、生活費は以前よりも保育所の分だけ稼がなくてはならない。
2人は、以前よりも稼ぎのよい職を探した。

光は、借金の支払いが滞っている人間のアパートに行き、ドアを閉められる隙に安全靴を挟みこむ役職を見つけた。
キツくはないが、気持ちのいい仕事ではなかった。
仕事が終わって保育所に寄って帰る。
これの繰り返しだ。
いつかは変わるのか、それともこのままでもいいのか・・・
光は全てのことに確信が持てなかった。

美佐子は昼、テレクラ嬢をした。
家で携帯電話に出るだけなので、美佐子はこの仕事を「内職」と言った。

そして夜は、変わらず、スナックで働いた。

そんな中、彰子は長男夫婦と新しい二世帯住宅の青写真を描き、娘夫婦も小さい家を建てる計画を立て、一見、明るい未来へ進んでいるように思えた。

彰子の家は解体された。

亡くなった主人の大事にしていた松の枝ぶりを残したいので、庭師に何度も気をつけて移動して欲しいと頼んだけれども、解体業者が持ち込んだクレーン車の不用意な一撃で一瞬にして折れた。

彰子が嫁いだ家であり、彰子が3人の子供を育てた思い出の家は、数日間で跡形もなく消え去り、更地となった。

それは新たな家族の構築に必要なことだった。

新しい家が出来るまでのしばらくの間、彰子と娘夫婦はハウスメーカーの用意したプレハブ住宅で過ごすことになった。

仮住居に引っ越してまもなく、ウタコが戻ってきた。